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ライデーン2
ライデーンは現在まったくの独り身である。
小さなアパートに暮らしている。独りで起き、独りで朝飯を食べ、仕事から帰ると独りでビールを2本飲み、そして独りで眠りにつく。
そんな生活を5年間続けている。
「気楽でいいね」という人もいれば、「いろいろ大変だね」という人もいる。
彼は物心ついたときから、母親と二人暮らしであった。父親についての記憶はない。そして家はあまり裕福ではなかった。母親はスーパーで食品加工のパートをしていた。少年時代には、彼も人並みに、母親にテレビゲームをねだったり、おもちゃのロボットや拳銃なんかをねだったりしたのだが、かなえられたことはなかった。彼にも、そんな物を買う余裕はないという、家の経済状態はなんとなくわかっていたのだが、、、
息子の欲しがる物を買ってあげられないとき、母親は一瞬(自分でも気付いていないのかもしれない。そのくらい一瞬)悲しそうな目をした。ライデーンは母親のそんな悲しい目を見たくなかった。それから彼は母親に物をねだらないように努めた。ねだらなくなると、何かを欲しいと思ったり、何かに、こうしてもらいたいというような欲求が少なくなっていった。クリスマスにライデーンは母親から一度だけプレゼントをもらった。それは忘れられない思い出である。
彼が小学5年生のクリスマスイブの夜に、母は仕事場から真っ白い餅4個と、パックに入ったイチゴを持ち帰ってきた。そして餅の上にイチゴをいくつかのせて、小さなロウソクをたててクリスマスケーキらしきものを作った。「餅ケーキだよ。ライデーン」と言って母は笑った。そしてそれを二人で食べた。あまり美味しくはなかった。翌朝、彼がアパートの玄関を開けるとそこにピカピカの自転車があった。「ライデーンへ」というサンタクロースのイラストの描かれた小さなカードが、ハンドルにはさまっている。「お母さんありがとう」と彼が言うと、「私は知らないわよ」と母親は片目をつぶって笑った。
後にも先にも、プレゼントをもらったクリスマスは、その年だけであったが、その一度の経験はライデーンにとってクリスマスは「良い日である」というイメージを彼に植え付けたのだった。

彼が高校を卒業した年の暮れに、彼の母親は亡くなった。

ライデーン
街はクリスマスの雰囲気に包まれ浮き足立っていた。手をつなぎ、これ以上ないくらいの笑顔で行き交うカップル達。恋人へ指輪のプレゼントをしようと、なけなしの給料を財布に、赤信号を睨みつけている鼻息の荒い青年。幼い娘へのプレゼントであろうか、ピンクの包装紙にアニメのキャラクターがプリントされた荷物を小脇に抱え、家路へ急ぐ、緩んだネクタイのサラリーマン。赤と白のミニスカートのサンタクロース風の衣装で客を呼び込む居酒屋の女性店員。隣りにはトナカイの着ぐるみを着た男性店員もいる。
イルミネーションの点滅する光で、いろいろな色に染め上げられた街の風景。360度どこを向いていても聞こえてくる、様々な時代の様々な言葉で歌われるクリスマスソングが一つに溶け合って、夜空に消えていく。
そんな街のなかで、ライデーンは飲食店へ氷を配達する仕事をしていた。50ccの改造されたカブの荷台に備え付けられた発泡スチロールの箱に、氷を目一杯積んで、お得意先へ届ける仕事。たいてい、飲食店には自前の製氷機があって、その製氷機でまかなえなくなった分の氷を配達するのが普通なのだが、今日はクリスマスということで、お得意先も年に何度もない稼ぎ時なのだろう、いつもの何倍もの注文が入っていた。
彼の勤めている酒屋は街の裏の路地を少し入った所にあり、お得意先を1〜2件まわってはその酒屋に戻り、急いで氷を積み込み、積み込んではまた別のお得意先へ向かうそれの繰り返しが延々と続くいう具合だった。
体力的にはきつかったが、ライデーンはそんな忙しいクリスマスの夜が好きだった。

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